チョコレートを食べたいだけの長いリリック

 

2月はとっても素敵な季節で

それは街にチョコレートが溢れるからなのです

わたしは2月に生まれたかった

できれば14日よりも前の

小さい頃の

あれは一体どこだったかな

見上げるほどのチョコレート・タワーが

もしも100万あったなら

クリスマス・ツリーにも負けないそれを

プールの監視員みたいに

ずっと見張り役もして

ご機嫌なときにはクッキーのかけらを

やさしい神様にでもなった気分で

100万円じゃ足らないな

いまはAM・4時らしく

わたしはうなされ起きました

膨らましすぎたボールみたいな

たったふたりきりしか乗れない

飛行船みたいなあれが暴れて

わたしは胸に、袖に、裾に、

空気を取り込み

窓からふらりと飛び降りる

陽気に

空き地みたいな草原のすみっこ

わたしはお腹が空いていて

となりには

痩せた、はにかむ横顔の

たぶん、恋人がいて

わたしはとなりで

チョコレートを待っていた、長いあいだ

底のない無意識に落とされ沈んだのが

チョコレート飢餓だけなんて

なんて浅はかのうてんき

ともかく今はAM・4時で

冷蔵庫には何もない

しかたなしにわたしは書こう

愛情込めた丸文字で

チョコレート

なんだかさみしい感じがしたので

チョコレート、のあとに

ボンボン、と書きたす

ボンボンはずるいよね、そのひびきはもう

ボンボンっていうのはひとくちって意味

多分ちがうと思うけど

明日になれば

チョコレートを買いにわたしは出掛ける

衿を立たせたコートに白シャツ、

真っ赤なスカートにお揃いの口紅、

よく鳴るヒールと揺れるピアスで

まとうチョコレート色は爪だけ

これくらいのほうがね、控えめでより愛

わたしは丸ノ内線に乗り

iPhoneには「チョコレート」という

プレイリストがありますので

チョコレート、は全部で5曲、

chocolate、も5曲にチヨコレイト、

ほかにも

チョコレート・ケーキ

チョコレート・バカンス

ビター・チョコレート

あの子のチョコレート

チョコレート・ビスケット

チョコをちょうだい

恋するチョコレート

チョコレート・コスモス

チョコ・チョコ・チョコレートなんて

ふざけたものまで

そういえば15歳のわたしは

バスケットボール選手か

パティシエになると決めていて

子どもの頃のゆめじゃないよ

大人になったわたしの願い

きちんと証拠だってある、緑の表紙の文集で

ほんの冗談のつもりで

でもインフルエンザになったので

そのまま印刷されて載ったよ

まったく構わなかったけど

バスケットバールのかたちと、

チョコレートの味がすきだったから

だけどわたしは運動音痴で

包丁を握るつもりもないから

だからあなたはここにいて

あの時決まったことなのかもね

パティシエのあなたはすばらしく

とくにその指先がすきよ

眺めていると不安になるけど

あなたはわたしより背が高く

あなたの指はわたしより長く

あなたの足はわたしより大きく

あなたの背中はわたしより広く

だから不安になるけれど

守られてるって思えてる?

わたしはのぞむところだよ

あなたがつくるチョコレートもあるし

だけど

オレンジピールは実は苦手で

砕いたピスタチオも

甘いシロップのたれた胡桃も

どんなにさっぱりさせたところで

生クリームも苦手です

カロリーなんて気にせずに

風変わりなんて気取らずに

時速120キロを超え

振りかぶって投げてよね

これは何度も言うけれど

わたしは断然ガトー・ショコラの

ぴらぴらについたあれがすき

あなたが煙草を愛しているから

わたしはチョコレートを愛するんです

あなたが5本煙草を吸えば

わたしは5つチョコレートを齧る

あなたが肺を汚すから

わたしは虫歯をこさえるわけです

さいきんわたしはあなたに会えず

もうすぐバレンタインだね

弟がもらって帰ってきた

バラの手作りチョコレートを

食べて怒られたことがあったな

でもまあそれは

あの子にあげちゃう女がいけない

どろぼうねこみたいな

姉がいることも知らずに

ともかく

いまチョコレートを食べたいのは

あなたと関係ありません

あなたと会えないからじゃない

チョコレートを口に含むのは

海に抱かれることだから

あなたに抱かれるより安心

スリルのことは別にして

せいぜいチョコレートをつくってください

わたし以外の女のために

だけど無理せず

うんと甘くしてあげてよね

ただし

チョコレートのことは、あれ、と言ってね

チョコレート、を唇に馴染ませすぎないでね

それは特別なひびきだから

わたしは書くから

あなたは作るだけにしてね

きっと夜があけ明日になれば

わたしはおめかし、電車に乗って

あなたではない誰かがつくった

チョコレートを買いに行きます